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hinohi_no
2024-11-18 21:50:54
24857文字
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トム関係
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キミ科学
TGM最高だったので記念に出した時の本です。shipなし。
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Hangman
自分が誰より速く飛べるのだと気付いたのは、いつだったか。
実戦で敵機を撃ち落とすことは、実際のところほとんど無い。きみは久しぶりの英雄だ、と言われた時、ハングマンはこれまでの奴らがどれだけ無能だったのかを悟った。
何か特別なことをしているつもりはない。
ただ、アヴィエイターの仕事は、飛行機を早く飛ばすことだ。乗物を最大限活用することだ。結果が全てだと、それだけをいうつもりはない。己より遅い全ての人間に価値がない、なんて言うつもりもない。ハングマンの親友はコヨーテだ。一緒にいて楽しいし、ずっとこれから先も馬鹿みたいに笑ってられるやつだ。コヨーテが己より速いのかと聞かれると、流石のハングマン様も友情とは切り離して答える。そんなことはない。
どいつもこいつも、ノロマだった。遅かった。空の上。考えれば分かるはずだ。どう飛べばいいのか。何を切り捨てていけばいいのか。自分の身を軽くするために、なんだってすればいい。カーレースの世界で、彼らが0.1秒を短くするために、一体どれだけの最善を尽くしているかを。
その点、アヴィエイターとレーサーの違いは、チームであるか否かによる。空の上で、アヴィエイターは一人だ。チームを組んでても、最後は一人だ。ハングマンはそう信じていた。
だって、個で戦うことは可能なのだ。
レーサーは不可能だ。彼らはぶっ続けで二十四時間走り続けることもあるし、その時は車のメンテナンスを整備チームが最速で行う。レースの途中に、だ。それらも含めて彼らのレースと言える。
ただ、戦闘機は、一度飛んで仕舞えば何もなかった。そして、これは最大の違いだが
――
軍だった。海軍による、戦闘だった。
そのことについて、ハングマンは深く考える気はない。アメリカはそういう国だからだ。
軍人になった時点で、命の話をするつもりはない。いつだって死と隣り合わせなのは事実で、覚悟だってできている。
速く、美しく飛ぶしかない
――
と言うより、結果として。自分の飛び方が、速くて美しいだけだった。お前、着艦綺麗だなあ、とコヨーテに言われて、そりゃあスムーズに着艦しようとしたら、ああなるだろと笑う。
コヨーテは俺の二番手だ。俺より遅い奴らは大概、俺を否定するか、追従するかのどちらかになる。人間、昔からそんなものである。
ただ、コヨーテはどっちでもなく、友達になろうぜ、とハングマンに手を伸ばした男であるからして、親友たり得る人間だ。
追従する奴らも可愛くて好きだ。でも、否定してくる奴らも面白い。どっちにしたって結論は同じで、みんな俺より遅いって言う話だが。
さて。
そんな誰より速く飛び、敵機を撃墜したこともある最高の俺の、完敗の話は知っているだろう。
実力もないくせに否定してくる奴らが、コソコソと陰口を叩いても、まあ痛くも痒くもない。これで二機。実績まで増えてしまった。結果として、ハングマンは最高難度のミッションでメンバーに選ばれなかったわけだが、最高すぎる結果をもたらしてしまった。
それもこれも、俺が最高だからである。
と、今までならここで終わっていたが、今回から続きがある。映えあるハングマン自伝、第十章から登場人物が増える。
――
マーヴェリックという、突然飛来した彗星みたいなアヴィエイターである。
ハングマンのそろそろ倍の齢に達しそうな男に対して、別段の感情はなかった。むしろハングマンは、ルースターとかいう図体がデカイだけで肝っ玉が小さい雄鶏が矢鱈とそれを意識していることが気になった。マジでなんなんだこいつら? 誰がどう見ても昔からの知り合いで、しかもそれを隠そうともしない。ルースター以外の全員が、いやいやいや知り合いだとしてももっとうまくやらんかいと胸中で突っ込むくらい。
普通はやるだろ。俺と仲が悪いみたいな、そんな当たり前の光景じゃない。教官と生徒のただならぬ関係だぞ? 見ていて具合が悪くなってくる。
どう見たって、マーヴェリックはルースターを特別視していて、それは甘やかすことと同義ではないものの、周りの連中をハラハラさせる。はっきり言って面倒だった。ことミッションにおいて、速く飛ぶこと以外を考えている奴のことを、ハングマンは馬鹿だと思っている。鈍いなら死ぬ。速くないと生き残れない。それを、仲間を庇うだとかチームーワークだとか、実にナンセンスだ。
ハングマンは、地上でも空でも完璧だった。自分のことを、ダメな奴だと思ったことはない。傲慢だとか不遜だとか言われる態度についても、改める必要がないと思う程度には。
事実だけが、ハングマンの世界だ。誰よりも速い。ここにいる誰よりも腕がいい、自分。
だから、事実だけが、ハングマンの前に現れる。完璧な自分よりも速いもの。
ピート・〝マーヴェリック〟・ミッチェルその人。
圧倒された。できるわけないと、流石のハングマンも思う時間。ミスひとつない飛行。俺ならどうだ? 俺なら飛べたか? 今のミサイルを当てられたか? 考える。仮定する。想像する。できなかった。何度シミュレートしても、今のハングマンにはできなかった。
それは生きた年月の違いだろうか? あるいは、そもそもマーヴェリックという人間の才能、あるいは本能による違いなのか?
どちらでも、結論は同じだった。
ハングマンは、負けた。完璧に。
あんたの、他の部分なんてどうでもいい。ルースターとの確執とか、恋人とか、そんなのどうだっていい。ハングマンより速く美しく、完璧に飛べる人間。あんたの性格が最低最悪でも、あんたが身内贔屓だろうと、どうだって良い。俺は選ばれなかった。その最高の完璧なアヴィエイターが望む人間ではなかった。それが事実だった。
あるいは、もっと単純に鼻っ柱が折られたと言っても良い。俺は最高で、俺は選ばれるはずで
――
でも、仲間を空で危険な目に遭わせるアヴィエイターは、不適格だった。マーヴェリックはそれを言語化しなかった。でも、あんただってそんな時はあっただろう。カーレースと違うと思っていた。けれど、自分一人だけで飛ぶものじゃないと、突きつけられた。
じゃあ、それが事実だ。
ハングマンは、情にあついルースターを馬鹿にしてきたし、自分より遅い人間に価値を見出してこなかった。みんな馬鹿で無謀で不要だった。
だけど、マーヴェリックは、そんなハングマンが切り捨てた全てを、不器用な手で拾い集める。下手くそでも、苦手でも、向き合うことで痛みを伴っても、やっぱり捨てちゃいけないものなんだと歯を食いしばって。
そんなことしなくても、そんなもの拾わなくても、死にやしない。あんたが速く飛ぶための足枷にしかならない。そう、思うのに。
マーヴェリックが、ルースターを庇って。
ルースターが、マーヴェリックを探して。
奇跡みたいに帰ってくる。そんな、映画みたいな瞬間に、見ているだけなんて御免だと思った。マーヴェリック、あんたはこの世界の主人公なんだろう。死なないで、これまでずっと生き残ってきたんだろう。
今回のあまりにも生存率が低いミッション。自分だって、どうなるか分からないと無線を聞きながらよぎるほど、一瞬一瞬の判断が全てを分ける世界。フレア、避ける、フレア、避ける、全て無我夢中で、ぎりぎりの綱渡りで。これまでも。そしてこれほどの。あんたが生き残ってきた人生は、華々しいほどの主人公だったと
――
そう一口で言えるほど、、優しくも容易くもなかったことなんて、分かるに決まってる!
こんな男が、空で生まれたような人間が、足掻いて、もがいて、後悔して、間違って、それでも胸を張っていられる場所がコックピットの中だとして。
そんな男が、この世にいることを、今も生きていることを、奇跡だと知っていて。網膜に、心臓に、鼓動に、記憶に
――
ハングマンの人生に、焼きついた衝動を。
あんたが空を愛したように、俺も空を愛してみたい。
速いだけじゃない。美しいだけじゃない。完璧だけじゃない。不完全すら内包して、あんたは命を燃やすみたいに空を飛ぶ。マーヴェリックは機体そのもののようで、全ての機体に愛されているようだ。
あんたみたいに飛びたいわけじゃない。俺は俺のやり方で飛び続ける。
けれど、あんたみたいに空を愛して、空に愛されてみたい。それってどんな感覚なんだ? その時、何が見えるんだ? あんたのようにいつか伝説と呼ばれる日、俺はどんな気持ちなんだ?
俺は素晴らしい功績を残す人間だろうと知っていた。それは漠然としたものではなく、予感であり、事実だった。けれど、俺だけじゃなかった。俺はこの世界で主人公じゃない瞬間があって、その時脇役として生きる。それでも。
それでも、俺は胸を張って、俺が最高だと言えるように、空で生きてみたい。そのためには多分、簡単に割り切ってはいけないのだ。地上での自分、空での自分。どっちも自分だ。どちらにおいても、俺は俺でしかない。
あんたもそうだろ、マーヴェリック。いくら空の上なら自由と言ったって、そんなのは言葉だけだ。あんたの体がそこにいても、心はもっと不自由で。それでも
――
そんなふうに、不完全に美しく在れるなら。
コールサイン、ハングマン。最高に性格が悪くて、でも腕はいい。親友はコヨーテ。職業、アヴィエイター。好きなものは自分で、嫌いなものは遅い奴。
追うべき男は、マーヴェリック。
スパルタで、コミュニケーション下手で、それでもこの世最速の生物。どこが不完全でも、どこが足りなくても構わない! 法則も、ルールもない。人間ってのは、そんな簡単にできちゃいない。人間は、感情でいくらだって生き方を変えていく。だから、何もかもが無意味だ。あんたという結果だけが、全てだ。
これまでの自分を変えてゆく。失敗だったというなら、分析して改良する。あんたもきっと、そうしたはずだ。一匹狼のコールサイン。俺は、あんたよりずっと性格が悪かったかもしれないけど、もう、いいのだ。俺は最速じゃなかった。誰より速くなんてない。高みを目指す、たった一人のちっぽけな人間だ。だから仲間を頼りもする。それでもいい。それでいい。
この自身を振り絞って、あんた全てを、俺は追う。
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