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hinohi_no
2024-11-18 21:50:54
24857文字
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トム関係
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キミ科学
TGM最高だったので記念に出した時の本です。shipなし。
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Rooster
この人は口下手だ、と気づいたのは、何歳の時だったろう。
母はよく喋る人だった。マーヴ! 元気だった? 相変わらず
……
そう
……
また僻地に飛ばされたの
……
でも、ルースターに会いにきてくれて有難う! ねえルースター、マーヴが会いにきてくれて、嬉しいわよね!
実際のところ、嬉しかった。幼い時分にあった父の記憶はあっという間に薄れ、正直なところそれほど覚えていない。子供の脳細胞は入れ替わりが激しいし、父がいないことを不便に思ったことはないのだ。多分、この世の片親の元にある子供は、大概がそうだろう。大人が言うほど。両親が揃ってる人間が言うほど。子供は何とも思っていなくて、不幸でもない。
その上、昔から自分を可愛がってくれる大人がいるのは、おそらく幸運なことである。父の親友である彼は、ムービースター顔負けのキラキラとしたかんばせで、いつだってルースターを嬉しそうに呼んだ。宝物みたいに。
「ルースター!」
マーヴ、と呼べば、その人は瞳を嘘みたいに輝かせて、ルースター、天才だ、天才の可愛さだ
……
と瞬いていた。その完璧なまでに整った顔立ちに言われるのは、今であればこそばゆいと思うし、やめてくれと言いそうだが、ルースターは母に散々可愛い可愛い褒められて生きてきたので、ありがとマーヴ、と言える程度には愛情を受けていた。
でも、短い黒髪も、日に焼けた肌も、きっちりと吊り上がった柳眉も、目尻に向けて僅かに垂れながらも虹色みたいな瞳にかぶさる瞼も、好調した頬も、いつだってにっこり笑ってるみたいな口の端も、何もかも、実のところ可愛いのはマーヴェリックその人だった。勿論、ルースターだって天使のように可愛かった。母もマーヴもそう言っていたのだから、それは事実だ。
マーヴは、ルースターが一緒に歌ったり遊んだりしたいと言えば、いつまでも付き合ってくれた。飽きたり嫌になったりせず、放り投げもしなかった。マーヴの艶やかな黒髪を触ったりしても、抱いてくれる手は優しかった。
「ルースター」
――
気づいたことは、マーヴェリックは確かにルースターに優しかったが、撫でたり、遊ぶのにいつまでも付き合ってくれたり、抱きしめてくれたりすることで愛情を表現していて、口ではそのことを目一杯言えない人だと言うことだった。
だって、記憶にあるマーヴはいつもそうだった。ルースターの名前を呼ぶその声は、いつだって美しかった。愛情に満ちていた。耳に心地いいほどの音として流れていた。
時々ルースターの様子を見にきては、最近はどうだ? 学校では? そうやって聞いて、ルースターの手を握って勇気づけてくれた。ほんの少し、学友に冷たくされていた学生時代に、マーヴはそんなこと気にするな、と手のひらの温度で教えてくれた。その瞳の真摯な眼差しが訴えてくれた。
けれど、ルースターの願書を抜いた時、彼は途端に口を閉ざした。なんの言葉も紡げなくなった。
「マーヴ、なんでだよ、せめて理由を教えてくれよ」
「それは
……
」
気がつけば年齢を重ねていた美しい男は、翳りのある表情でルースターの言葉を沈黙にしてしまう。母が死んで、この世で一人ぼっちになったルースターは、それでもそれなりの大人だった。もう、一人で何かを決められる人間だった。
教えてほしい、という言葉一つにすら、彼はうまく答えられなかった。自分でやったことなのに、狼狽して、困り果てていた。まるで、幼子のように。
「それは
……
君にはまだ、早いから
……
」
「そんな」
そんなことがあるか。そんな馬鹿な話があってたまるか! ルースターには衝撃ですらあった。今まで世話になってきた男が、いい大人なんて到底思えない。
マーヴ、あんたの言葉を紡ぐ力って、どこに置いてきたんだよ!
「もう、いい」
言い訳すらまともにしてくれないのなら、マーヴェリックにとってのルースターなんて、本当は、どうでも良かったのかもしれない。
「ルースター」
その音だったら何遍も聞いた。これまでの人生で、あんたに呼ばれた回数なんて数えきれない。いつまでだって、その声に名付けられたかった。
あんたの手が俺に伸ばされようとする。触れたかったのか、触れれば何とかなると思ったのか。あんたは言葉を唾棄してる。あんたは皮膚と皮膚が触れ合えば、心の全てが伝わると思ってる! 馬鹿にも程があるだろう!
「触るな」
パシ、と彼の手を払った。傷ついたような表情に、嘘だろうと言いかける。嘘だろう。その顔を浮かべるのは俺のはずだ。傷ついたと叫ぶのは俺のはずだ。これは権利だ。これは愛だ。その罰だ。
だと言うのに、あんたは誰より愛を失ったって顔をして、払われた手を見つめる。
謝れば許してやる。ルースターにだってそのくらいの理性も分別もあった。この時点で、ルースターにだって分かっていたのだ。マーヴェリックがどれだけ凄いアヴィエイターだとしても、言葉を紡ぐ人間としてはあまりよろしくないことを。
結果を述べるならば、マーヴェリックは謝らなかった。
まなじりを下げて、辛そうに、半身を失ったように、心に大きな穴が空いたように、それでも「すまない」の一言も口で言えない大人ってやつが!
流石に出ていってくれ、と告げたルースターを責められる人間なんていないはずだ。マーヴェリックは何度か口を開こうとしては、閉じて、とうとう諦めて出ていった。心底寂しそうな瞳の色を残像みたいに残して。
勘弁してくれ。あんたは誰かにとっての、常だった残像だ。あんたにそんな目で見られて、瞼の裏に焼き付かない人間なんているものか。そういう、言外の仕草やコミュニケーションについて、彼は本能で行っているのだ。言葉を失った代わりに、神は彼に別の何かを与えた。
残された部屋の中で、急に静けさだけに襲われて、ルースターは独言る。
「
……
もうマジで、マーヴのことなんて知らない、許さない、本当に、何なんだよアイツ
……
!」
言葉は、人類最大の発明品だ。マーヴェリックは、その言葉とうまく付き合えない。あの美しい瞳で見つめられたって、射抜かれたって
――
心に残像みたいに焼きついたって。引き下がるものか。納得するものか。許してなんて、やるものか。
いつだってアンタはそうやって、言葉以外で許してもらってきたのだろう。だって、顔が抜群にいいから、美しいから、芸術だから、心まで綺麗であどけないから。見つめ合えば、いい雰囲気になってきた人間だから!
「
……
俺だってもう子供じゃないから、それくらい分かるよ、馬鹿マーヴ
……
」
あの瞳と見つめあって。
目を瞑って、顔を傾けて、唇を触れ合わせれば。
それで全部分かるなんて。恋が始まって、喧嘩も忘れるなんて
――
映画の中だけの、御伽噺だ。そうなるだろうと観客が思って、スクリーンの中でその通りのことが起こる、期待のすり合わせだ。
でも、人生はそうじゃない。生身の人間が共に生きるということは、本来、もっと難しいことのはずだ。ずっと慕ってきた、誰よりも憧れて、ずっとそばにいたマーヴと、こんな風になるんだから。
あんたは何を考えて、何を思って、どうして、俺を裏切ったのだろう。
言葉にされないから分からない。肌で触れ合っても一つにはなれない。あんたの気持ちなんて、分からない。
その、突拍子もないほどの行動に、あんたの優しさに、そして何より愛情に
――
何かの法則が、ルールが、ヒントがあって、解くことができれば良かったのに。
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