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hinohi_no
2025-04-29 20:28:40
6856文字
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九龍城砦
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愛のかけら/九龍城砦
秋兄貴の話。モブと洛軍と信一が出ます。この先の生き方について。
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「
……
信一?」
目をゆっくりと開ければ、なんだか視界が滲んでいた。何度か瞬いて、ぼやけていたのか、と思う。いつまで寝ていたんだっけ。今日は兄貴と一緒に、住人達の話を聞く日だったろうか。それとも、洛軍や十二、四仔と麻雀をする約束の日だった? ぼんやりと天井を見つめ続けて
――
不意に思い出した。兄貴はもういない。
「
……
洛軍」
出した声は自分でも驚くほど掠れていて、体全部に全く力が入らないことに気がつく。けれど返ってきたのは洛軍の声ではなかった。
「寝ていろ。血を失い過ぎた」
その声に聞き覚えがあって、視線だけ動かせば、秋兄貴が立っていた。ぱち、ぱち、とゆっくりと瞬いてしまう。夢の中なのだろうか、まだ。
「秋兄貴が助けてくれたんだ。信一が撃たれたから、俺が駆け込んで
……
とにかく、目が覚めてよかった。休んでくれ」
「
……
」
体力的に声も上手く出ないが、言葉もないとはこのことだ。
秋兄貴の家に駆け込んだ? 陳洛軍が?
いくら何でもなりふり構わな過ぎだろうと、何だか笑ってしまいそうになる。
「お前を撃ったやつは、秋兄貴が片付けたから」
「
…………
」
全然話が分からない。ほんの少し意識を失っていただけで、ここまで置いてけぼりにされることがあるだろうか。
秋兄貴が首だけで洛軍に指示して、洛軍が部屋から出ていく。その体が、寝台の脇に腰掛けられた。わずかに沈むベッドと、落ちる長い沈黙。
外はよく晴れていた。鳥の声がするのは、流石秋兄貴の自室だった。緑の影が、窓から差し込んでいる。それが太陽の色で流れて行くのを、ずっと見ていられると思った。
「
――
信一」
勇気を振り絞ったような声。
何かを言おうとして、口を閉ざす。秋兄貴はそういう人だ。思慮深すぎるのも生きづらいだろうと思う。きっと何を言っても俺への許しを乞うようで、けれど伝えたいことはあって、その葛藤が透けて見える。
だからこの人を好きだったのだ、みんな。
あいつは無茶をするから、自分を許せないままだから。
いつか会合の帰りに、兄貴が教えてくれた。それが悲しそうで愛おしそうで、俺はそうなんだと返した。長生きしてほしいと思った。生きていれば、俺が兄貴に会えたように、兄貴が俺に会えたように、愛しいものができるかもしれないから。それは人でも場所でも物だってあり得ることだった。
「
…………
」
声を出すのは辛い。涙が出てしまいそうだった。
ほんの少し動く指で、ベッドに置かれた秋兄貴の手に触れる。彼は驚いて俺を見た。血の気を失って、上手く動かせないままの残った指。たった二本のそれがどうしたいかを汲み取って、恐る恐る、けれど確かに
――
秋兄貴は、俺の手を握った。
「
…………
ね」
それだけで良いのだ。言葉なんて要らないから。ここに生きてるあなたと俺が触れ合って、確かにいることが、きっと、龍兄貴に顔向けできることなのだ。あの人は決して秋兄貴のことを責めなかった。
「
……
っ
……
」
秋兄貴が肩を震わせて、堪えきれずに泣きだすから、俺も泣いてしまう。決壊したように秋兄貴は泣く。この人が泣いたところなんて、信一は見たことがなかった。
「龍捲風
……
すまない、すまなかった
……
信一
……
っ
……
!」
――
大丈夫だよ、大丈夫だから。
言葉にならないまま、その手を握り続けた。ただずっと、自分を許して欲しくて。きっと許せないままでも、誰かが許してほしいと願っていることだけが、あなたに伝わればいいと思ったから。
兄貴の愛した、俺のおじさん。
長生きしてよ、それでずっと、俺の歩く先を見守っていてよ。
それが藍信一の願いだった。そしてきっと、龍捲風の願いでもあったのだ。
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