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hinohi_no
2025-07-27 10:37:33
12947文字
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その他
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運命のひと
ゲ謎のshipなし怪奇もの。寄稿作品
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2
3
目が覚めると、目玉に体がついているようなどう見ても化け物がこちらを覗き込んでいた。
水木はものすごく体中が痛かったし、うんざりしていたので悲鳴を上げるほどの元気もなく
――
何度か瞬いて受け入れた。
「起きたか、水木!」
記憶にあるものは全く違う、か細く甲高い声。それでも、分かる。根底に流れる優しさはあの男のもので。
「
……
ゲゲ郎?」
「そうじゃ、よく分かったのう」
声に喜びが満ちていて、目玉だけなのに随分と表情が豊かだと驚く。
「お前
……
どうして
……
それに、沙代さんは
……
」
肋骨が痛い。折れているかもしれない。けれど、そんなことは本気でどうでも良かった。
「沙代さんの残滓は、儂と鬼太郎で祓ったぞ。それから
――
すまん。儂は、あの子の鬼太郎のことが
……
心配じゃったのだ。お前は記憶を失っておって
……
。
まさしく奇跡と言うべきじゃろう。儂の死体から溢れた目玉に命が宿り、こうなったのじゃ」
世の中を見るには、片目程度でちょうどいい。
そんなことを言っていた男がまさにたった一つの目になったことは、どこか不思議だった。
でも、鬼太郎のことを思って溢れた目は、きっと男の涙でもあった。世界を滅ぼす憎悪をその身に引き受け、あれほど愛した妻と死に別れ、人間を憎んでも呪ってもいいはずの男は
――
それでも、変わることもなくて。
「俺に、話さなかったのは
……
」
「
……
忘れていたい記憶も、あっただろうと思ったのじゃ
……
」
それはまさしく、沙代のことだった。
狂おしいほど優しいこの化け物は、己との思い出よりも、水木が苦しくない道を選ばせようとした。きっとお前がゲゲ郎として語りかけてくれれば、俺は思い出せたのに。
自分は忘れられても構わない、なんて。
そんなこと、なかったのに。どうしようもないほど優しいから。男も、女も、嘘みたいに美しいまま。
「のう、鬼太郎。水木は
――
記憶などなくとも、良い父じゃったろう?」
ずっと黙っていた鬼太郎に、ゲゲ郎はあっさりと話しかける。餅みたいなほっぺたで、鬼太郎は、そうですね、と言う。
「鬼太郎
……
!」
さっきはそれどころでは無かったが、もう別だ。水木の胸に暖かなものが広がる。愛しい愛しい鬼太郎。皆に愛されて、望まれて、守られて生まれた祝福の子。
「さっき、俺のことをお父さんと
……
」
「うっ
……
ええ、まあ
……
はい、お父さん
……
」
「鬼太郎!」
「良かったの、水木!」
嬉しさで卒倒しそうになる。このぷにぷにのお餅のような鬼太郎に、お父さんと呼ばれる喜び
――
俺にも愛しい誰かができると、いつかゲゲ郎は言ったけれど。
大切で、どうしようもなくて、世界よりもずっとずっと生きていてほしい。
歪で、ひび割れて、壊れてしまった心。戦争で失ってしまった自分。水木自身を甦らせてくれた目の前の/もういなくなってしまった命を想う。
救えなかった命がある。謝ることも最早できない。彼ら/彼女らに詫びながら、どうしようもないほどの業を背負って、己は生きていく。
けれども立ち止まって、死んでしまうわけにはいかないのだ。水木には、水木自身がある。その人生が、まだ続いている。その道を、作ってくれた友がいる。
だから生きていく。歩いていく。喜びも、悲しみも、抱えきれないほど携えて。
「なあ、ゲゲ郎。
……
いや」
ずっと、そう呼んでいた。慣れ親しんだ、友の名前。
「折角生きて再会できたんだ。名前くらい教えろよ」
「む、知りたかったのか?」
「当たり前だろ。勿論、お前の奥さんの名前もだ。お前は、お前たちは、俺の」
もう二度と忘れない、あなたの。あなたたちとの、よすがのことを。
――
運命と、人は言うのだから。
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