hinohi_no
2023-02-13 20:44:10
17486文字
Public ザファ
 

あなたのいない世界が最後

ザファ。宮城に幸せになって欲しいだけのお話です。17482字。


 
  
 宮城リョータ。
 バスケだけが生きる支えだったと話すのは、
 コート上の司令塔。
 常に余裕を持ち、時に笑顔すら浮かべる。
 けれど、彼の原点には
 いつだって、兄の面影があった。
 
 
 宮城リョータの活躍は、神奈川県湘北高校から覚えているものが多いだろう。筆者もその一人だ。バスケット界では決して高いとは言えない身長で、体躯が違う相手に切り込んで抜いていく姿は痛快であった。
 そんな宮城は、実のところ沖縄出身だという。
「沖縄が、俺の原点というか……ルーツなんです」
 驚くほどリラックスしながら目細める姿に、筆者は正直たじろいだ。宮城リョータといえば、スピード&クイックネスで目を奪う選手だ。いつも余裕を持って、時にチームをクールダウンさせる。彼のゲームメイクにはしゃいだことも多い。
 しかし、こんなことを他人に思うのは初めてなのだが、この時の宮城は、話しかけたら消えてしまいそうだった。
「兄が、海の事故で死んでから……バスケだけが、俺の生きる支えでした」
 
 ・・・・
 
 宮城がバスケを続けると決める前、大事故を起こしたという。生きているのが奇跡だと、医者は言っていた。
「何もかも嫌になった時期があって……チームメイトにも迷惑かけました。なんででしょうね、殴ったり、殴られたり。そういうバカなことしてたことがあって」
 バイクはぐちゃぐちゃだったが、後遺症もなく回復に向かったことは幸運だった。しかし、宮城の胸中にあるのは――事故の直前たどり着いた、ありし日の故郷の風景だった。
「沖縄に行きました。全然変わってなくて……驚いたことに、兄の秘密基地もそのままだったんです。もう空気の入っていないボールとか」
 大人が入れないような断崖の上にある秘密基地。兄と宮城だけの、思い出の場所だ。
「そこで、兄が山王高校に勝つんだ、って言ってたことを思い出して。俺を抱きしめて、『忘れるな』と言ってくれたのに、忘れていたんです。ソーちゃんのこと、何一つ忘れたくなかったのに。……俺は何をしてるんだろうって本当に思いました。もう死んでしまいたいくらい、自分が嫌だった」
 宮城の瞳は、時折怖いくらい澄んでいる。生と死の間を彷徨って、得たものはなんだったのか。
「バスケを続けていこう、またやろうって、そう思った。……それだけです。俺の世界は、ソーちゃんで回ってました。だから、バスケだけが生きる支えだった。でも、ソーちゃんがいない世界でも生きていく覚悟が決まったのも、きっとその時です」
 
 ・・・・
 
 宮城の、アメリカでの生活は……いや、これまでの生活は、あらゆる困難の連続だった。
「でも、それって誰だってそうじゃないですか。一度も苦しまなかったやつなんていないと思うんです。だから勿論、俺は不幸じゃありません。アメリカに奨学金で来れたのも、すごく有難いです」
 英語覚えるの、メチャクチャ大変ですけどと宮城は息をついて笑った。奨学金制度がなければ、金銭面でアメリカなんて来れなかったから頑張らないと、とも。
「それに、沢山のことがあって、いろんな奴に出会ってバスケを続けてきて……俺はすごく楽しかったです。今も、大変ですけど」
 けど、の後に続く言葉と表情を、撮影しておけば良かった。それが、筆者の後悔だ。
「けど――俺は幸せです。あの日、兄が抱きしめてくれたことを覚えてるから。あの温もりを忘れません。出会った仲間も、過ごした時間も、全部俺を形作る全てなんです。痛い思いも、苦しい気持ちも、きっと今に繋がってると思います。
 だから俺は、これからもずっとバスケが大好きです」
 宮城リョータは、そう言って笑った。
 現在は、英語にも慣れて、あの沢北(元山王工業)とも交流を育んでいるという。宮城リョータは、誰もが知っている天才ではない。けれど、その努力の裏側に、消せないほどの熱があった。

 これからも、宮城リョータは――命を燃やすようにバスケを続けていくのだろう。