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hinohi_no
2018-08-13 18:16:02
2256文字
Public
トム関係
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MIFO とあるCIA長官の独白
イーサン・ハントは、欠陥品だ。
CIA長官エリカ・スローンはそう思う。己はエージェントではない。最初から上に立つ者として生まれ、そのままに才を発揮し生きてきた。
誰も信じるな。それが己の信条であり、上に立つ者の嗜みだ。裏切り者はいつだってどこにでもいる。どれだけ信頼を重ねていても裏切る可能性だけは考慮していて、そうでなくても己は先を先をと読んでおく必要がある。目的は国家の安全だ。それ以上でも、以下でもない。CIAはその為にある。
ただし、IMFは違う。全く、CIAから生まれた組織だと言うのに、それの目的は「世界の安全」だ。インポッシブル・ミッション・フォース。ふざけた名前だ。やっていることも、言っていることも、何から何までふざけている。
そのふざけたものに、何十億の人々が、救われている。
最たる例がイーサン・ハントで、あれはIMFの象徴だ。世界の安全の為の組織だと言うのに、イーサン・ハントはどこまでもまともで、どこまでも狂っている。
そう、いっそ狂っていると思うのだ。世界を救い、何度も組織に裏切られ、それでもまともな人間の価値観を有している。普通の人々が、罪もない人々が巻き込まれることを、何においても良しとできない。仲間を犠牲にすることが出来ず、愛したものを見捨てることも出来ない。
今時、新人のエージェントだってそんな道理は捨てている。
エージェントとしてはどこまでも欠陥品で、それでもその力はどんな者にも真似できない。イーサン・ハントを、他の何者にも真似できぬ唯一無二の存在に仕立て上げている要素。格闘だったら、もっと強い者がいる。機械だったら、もっと詳しい者がいる。非情さだったら、もっとも遠いところにいる。変装の達人?チームリーダーとしての資質?機転がきく?頭の良さ?諦めない心?
ーー本当のところ、イーサン・ハントを唯一にしているのは、その、信じられないほどまともなところなのだ。
世界の命運がかかった時に、友人の命を優先できるか?
己は正しいことをしていると、その為なら時には友の命も犠牲にできると、それが普通の人間の決断だ。大義の為に、泣きながら、それでもやらねばならぬことをする。目の前の友が願うこともその筈だと、誰かに言い訳をして。
別にそれが、間違っている訳もない。
ただ、イーサン・ハントには出来ないのだ。世界で一番エージェントに向いていない人間だと、彼と会ったものは言う。だって彼は「俺に構うな」「私を見捨てて」と言う言葉を、受け取ることが出来ないのだ。それは、エージェントとしては圧倒的に間違っていて、欠陥で、少なくともーー正しくはない。
イーサン・ハントに、「大義」はない。
国家も、政府も、彼の前には存在しない。そこにあるのはただ隔たりのない価値観だ。
愛するものを、救いたい。
それは街行く多くの人々だ。それは焼きたてのパンを運ぶとある小さな街角だ。それは毎朝同じ時間に出勤する会社員だ。それは手を繋ぐ親子だ。それは喫茶店でパソコンを開く若者だ。それはありふれた光景で、それを幸福だと思う人は、少ないのかも知れない。
けれど、それがイーサン・ハントの、守りたいものだった。
そこに大義はない。国家のため、社会のため、そんな括りでは断じてない。だからこそ、イーサン・ハントは、絶望しない。裏切られても陥れられても、イーサン・ハントの主人はただ一人ーーイーサン・ハントなのだから。
こんな男は他にいない。なろうと思ってなれるものでもない。イーサン・ハントの信念は、イーサン・ハントにしか成し得ない。だから、イーサン・ハントはIMFに、居続ける。
IMFで、在り続ける。
難儀な生き方だ。少なくとも己には信じられない。己はいつまでたってもイーサン・ハントをいざという時裏切る獣としてみるだろう。自らの首輪、その先にある手綱を、己自身が握っている。
敵になったら、これほど恐ろしい男はいないだろうと。
イーサン・ハントに大義はない。だからこそ恐ろしいのだ。イーサン・ハントの主人がイーサン・ハントでしかないからこそ、この男はなんだってする。命を救う為に奔走する。
それなのに、いいや、だからこそ、イーサン・ハントはーー呆れ返るほど、人間だ。
エージェントとしては欠陥品で、人間としてはどこまでもまっとうで。
そんなエージェントが今まで生き延びて、伝説となるほど世界を救っている。そんな欠陥品が、エージェントをやり通している。いつ潰れてもおかしくはない。そう思っている。少なくとも、IMFの創設者ジム・フェルプスの年齢を超えるまでは到底信用できないだろう。いくつになっても人は絶望できる。心が折れる。イーサン・ハントだって、例外ではない、かも、知れない。仲間を裏切り、組織を裏切り、突然、自分の名前がどこにも残らないことに、虚しさを覚えるのかも、知れない。
そしてそれを、もっとも恐れているのが、イーサン・ハントなのだろう。
それでもイーサン・ハントは証明する。己の生涯をかけて信念のもと生き続ける。己にとってイーサン・ハントは手駒に過ぎない。いつだって切り捨てられる。信頼しない。信用しない。
ジム・フェルプスはーーきっと誰より、信用されていただろうから。
「私は貴方を、使い捨ての駒として、いつだって利用するわよ、イーサン・ハント」
そして最後の最後、それでも彼が笑って世界を救って、いたのなら。
その時こそ、IMFとイーサン・ハントを、少しは認めてやれるだろう。
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