hinohi_no
2017-07-01 22:39:55
1101文字
Public その他
 

君の名は。

藤井司は立花瀧がうつくしいことを知っている。

うつくしいおとこを知っている。
そいつの名前は瀧と言って、弱いくせに短気で喧嘩っ早いが、正直で嘘のつけない高校からの友人だ。高校からの対人関係は大人になっても続くとはよく言ったもので、大学に進んでも俺は瀧と真太とは変わらずにカフェに行っていろいろなことを話したし、誰より気の許せる間柄とも言える。
さて、藤井司は不器用ではない。己のことだ。俺は器用に立ち回ることには結構な自信があるし、勉強だってサークルだって恋愛だってそれなりにできて、その割には他人が羨むようにこなしてきているとも言えるだろう。誰もが必死になる就活はとうに内定を片手の指では足りない程貰っていて、その中には大手企業だって存在する。それに比べて。
それに比べて、立花瀧というおとこの、なんて不器用なことだろう。 ESの添削を勝手にしてやった時、こいつはほんとうにバカだなあと思ったのだ。企業の求める志望動機と言うものは、筋が通っていて、それなりの説得力があって、まともな文章に落ちていれば、それでいい。そういう、まともな文章を書ける人材を求めているのだ。その人にしかできないこと、唯一無二の人材、大それた希望なんてのは、誰だってそれなりの話に仕立て上げているし、実際のところ、社会という歯車において、まるで夢みたいに有能な人間に、ほとんどの人はなれない。そういう人間で、社会はまわっている。
ずっとなにかを、探している。と、一度、呟いたのを耳にした。
そのなにかがあるいはあの日、ともに探しに行ったあの場所にまつわるなにかであると、分かっていても、口にしなかった。 まるで信じがたいような話の数々を、だって瀧自身が忘れていたからだ。
いったい、俺、なにをしていたんだっけ、と泣きながら口にした、そのうつくしい横顔を、おぼえている。
ESに書かれた、忘れられないものを忘れたくないと言った内容の志望動機にため息を吐いて、こんなんじゃいつまでたっても内定は出ないな、なんて笑ってやりながら、あの頃の瀧を思い出す。あの日のおまえに、ほんとうは、寄り添ってやれたんだろうか。 ぽろぽろと溢れてゆく涙ばかり見ていられなくて、なびいた髪がうつくしくて、立花瀧が、うつくしいことを知ったのだ。
今もそうして、なにかを探し続ける横顔が、探し物を見つけられれば良いと、そして大きな瞳からこぼれた涙がつたう先の唇が、微笑んでくれればいいと、その笑顔を誰かがひろいあげてくれればいいと、願っている。
そう言うものが見たいと思って、なにかを探す人になにかをあげたいと思って、数ある内定の中からある仕事を選んだ、藤井司は待っている。
立花瀧が、笑う日を。