hinohi_no
2017-03-21 21:51:51
383文字
Public トム関係
 

息をとめるまで走り続ける獣の名

イーサン・ハントの、名前。

イーサン・ハントは恋をしていた。これまでの人生においてもっともさいわいなる恋に落ちていた。その恋が死んだら己もともに死んでしまおうと思うくらい、大切で、うつくしい、恋だった。
そこに嘘などないだろう。たとえ今その愛しき人を手放して、のうのうと生きていると、しても。のうのうと生きていると彼は言うが、いわゆる言葉の意味から考えるに全くの嘘でった。本人にとっては違うのかもしれないが、身を粉にし、骨を砕かれながらも、切られ、謗られ、なぶられ、息を止めようと、誰かの幸福のために戦う姿は、いっそ殉教者のようだった。それが彼女を手放した、彼の決意なのだろう。
彼は失って、もう手に入れようともしていないのだ。安寧を。安息を。世界の裏側で戦う日々からの脱出を。誰も彼の名前を覚えていなくても、どこかの誰かの笑顔のために彼は走り続ける。彼女を手放して、恋を手放した。彼は。