hinohi_no
2017-03-20 23:01:29
575文字
Public トム関係
 

幸福なおわり

ラストサムライ

ネイサン・オールグレンの、そのてのひらに握られていた人の命を奪うためのものが銃から剣にかわり、剣を与えた男に、いつしか剣を渡す側になっていた。お前はここで終わっていいのか。死ぬべき場所は、お前の望む桜の地は、ここではないだろうと、あの酒に溺れた男がいつの間にか、そこにいた。
――アルコールで濁っていた瞳は澄みわたり、銃ではなく武士の命である刀を握って、異人の男が立っている。誰が彼を侍と言うだろう。刀を持つこともゆるされなくなり、髷を切られ、打ち捨てられる。髷もない。色素の薄い髪。片言の日本語。かつての絶望を影にも見せず、ネイサン・オールグレンという男は。
侍と言うわれわれの誇りは、形がなくともそこにいた。
われわれら武士である。日本人であることに誇りを抱いている。その、心だけで良かった。何もいらない。この心があるうちに、それだけを抱えて、ここではなく、もっとも美しい場所で死にたくなった。贅沢な、はなしだ。己の腕の中、無念だろうに果てた子すら。
……この世でもっとも美しい場所で死にたかった。そんなことは不可能だと思っていた。信じていた。勝元は夢を見ない。だけど、そこが、最果てだった。この世でもっとも美しい場所。嗚呼。心を預け、預けられた美しい侍の胸の中で、息を、止める。
……この世でもっとも美しい死だろうと、確信して目を閉じた。