hinohi_no
2016-01-06 22:55:25
1492文字
Public トム関係
 

アイマベ

本編後は仲良しのはずだと思ったんだ。

 かねてトップになった暁にはこのトップガンの教官となる名誉が与えられると言われたのが最初のことで、アイスマンはトップガン養成学校の中で一位を己の力でもぎとった。からして、教官となるのは当然だった。己もこの最高峰の領域でこれから生きていくのだと思うと胸が躍る。
「新しき同僚を紹介しよう。トム・カザンスキー、コールサイン“アイスマン”!」
「ハッ!」
 軍隊式の返事をして背筋を伸ばして胸を張る。
「そして、ピート・ミッチェル、コールサイン“マーベリック”だ」
 つい、と隣に歩み出てきた、ヘーゼルのような、ブルーにも見えるような色彩の瞳を持つ人間。彼がまっすぐに前を見ているだけで誰かがため息を吐きたくなるような、うつくしい、おとこ。黒髪は色気をはなっていて、その赤い唇はつよい意志を感じさせる、そのけものが、一歩前に出る前にこちらを一瞥する。目があった、と思ったのはほんのわずか。彼も同じように力強く返事をして、背筋を伸ばす。室内の視線はすべて己の隣に注がれている。それもそうだろう。たった一人で、しかも僚機だったというのに、敵の機体をほとんどほとんど撃ち落とした天才的な操縦の腕は、神がかりに等しい。
「異例ではあるが、はえあるトップガン教官に新しい顔が二人そろった。しっかりやれ」
「「Yes,sir!」」
 そう、異例である。本来トップはたった一人。それは好成績をおさめ、たった一人でポイントをほとんど独占していたアイスマンが受け取るにふさわしい栄光である。
ただし、マーベリックがこの栄光にふさわしくないのかと言えば、そのはずはなかった。それはアイスマンも、堂々と認めるほかないのだ。そう、むしろ。……むしろ、撃墜されるかもしれないのに、本当に死ぬかもしれないのに、俺はアイスを守ると言い張って、己を守ったマーベリックを、凄いやつだと、思っているとも。命を救われた。俺はマーベリックのおかげで、ここにいる。
 さあ、いったん出ていけ、と言われ、マーベリックと二人、肩を並べて扉を開ける。マーベリックとはここで何度もぶつかった。それはトップを争う過程で仕方のないことでもあったが、同時にマーベリックの無鉄砲さに辟易としていた面もあったからだ。マーベリックの腕は確かだが、一緒に飛びたいか、と言われると話は別だった。今は違う。あの神話のような不敗劇は、このおとこと飛びたいと思わせるには十分だった。この、一匹のおおかみと。やつはちらりと俺を見て、それから口の端をつりあげた。
「トム、カザンスキー?」
 噴出したような声に、こちらも笑う。「ピート、ミッチェル?」
 本名は最初に名乗り合ったはずだが、コールサインで呼ぶのが当たり前の世界にずっといると、そっちの方なんておろそかになってしまう。現に、俺はマーベリックがピート・ミッチェルと紹介されたのを聞きながら噎せそうだった。マーベリックの方があとからついた名前だというのに、ピート・ミッチェルって顔か? なんてこっそり思っていた。そしてそれは、マーベリックも同様だったらしい。俺からしたら聞きなれたトムという名前は、彼からしたら聞きなれない不思議な名前なのだ。なんだか奇妙な気分だったし、お互いにおかしな笑いがこみあげてくるのが分かった。
「今夜は呑もう、トム」
 呼び名が気に入ったのか、マーベリックはくつくつと肩を揺らして眼尻の垂れた目を細めている。
「そうだな、ピート」
 耳がくすぐったいような応酬に、これからマーベリックと同じ場所で働いていくのだと思ったら、やけにそわそわする理由が、わかったような気がした。